いきるばのブログ

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社会福祉士で食べていけるか

(前回の記事はこちらです)

 国家資格でありながら、医師や看護師のように名前と仕事が一致せず、親戚や友人に言っても「へえ~。(知らんわ)」となるまでがセットの社会福祉士に聞きました。

「社会福祉士で食べていけるか?」

 答えは、「半分YES。」

 真面目な話、社会福祉士を必要とするようなところは、お堅いところが多いですので、(収入は低くても)安定していると思います。

 リアルな年収が気になる方は、「公益財団法人 社会福祉振興・試験センター」就労状況調査(令和2年度 )に詳しい結果が掲載されています。生々しいですよ!

 読むのが面倒な方は、

  • 福祉業界の年収は、全産業平均よりも低い
  • 社会福祉士は、福祉系資格の中では収入が高い
  • 社会福祉士は、正規職員の割合が高い

くらいを押さえておいてください。雑な言い方になりますが、就職さえすれば、あまり余裕はないけれど食べていけると思います。

 ただし、社会福祉士としての求人は多くないので、一度辞めたら再就職は難しいかも知れません。後述しますが、独立開業は更に厳しいでしょう。

 また、離職率が高い業界ですので、“半分YES”としました。

1.社会福祉士の就職

 社会福祉士の就職先は、福祉施設、病院、行政、社協、NPOなどが主になります。「生活相談員」「支援員」「ケースワーカー」「ソーシャルワーカー」などなど、就職先によって肩書きが異なるのが一般的です。

 しかし、社会福祉士資格が必須ではありませんので、業界の中でも、まだまだ「社会福祉士?あったらいいよね。(なくてもいいけど)」くらいが現実ではないでしょうか。“名称独占”の悲哀?

 実感を込めて言えば、社会福祉士の資格だけでは、就職はできても実務上はあまり通用しないと思っていたほうが良さそうです。(がんばろう!)

①福祉施設系(通所サービス、入所施設など)

 求人票には、「生活相談員」となっていることが多いと思います。利用者さんやご家族からの相談対応、その他連絡調整が主業務になりますが、実際は送迎や介護の仕事と兼務(実はそっちがメイン?)の可能性があります。

 ケアマネジャーの資格を持っていると、ケアマネジメント業務がメインになるとかならないとか。夜勤の有無も要チェックです。

 母体が社会福祉法人と民間系では、経営方針・理念が全く違うことも考えられますので、面接の際に、勇気を出して業務内容を確認することをお勧めします。

 いずれにしろ、介護が必要な方が相手の職場ですので、介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)以上の資格が、あったほうが良いでしょう。職員の多くを占める介護職の皆さんからの評価も変わると思います。(これけっこう大事)

 施設系の場合、初回完結ではなく、利用者さんとじっくりと人間関係を醸成しながら仕事を進められる点が魅力ではないでしょうか。

②病院

 医療機関で働く社会福祉士は、「医療ソーシャルワーカー(MSW)」と呼ばれます。配属先は「地域連携室」「医療連携室」「患者様相談室」など、看板は違えど業務内容はほぼ同じなことが多いです。(違ってたらごめんなさい)

 社会福祉士を必須資格として求人募集をするような病院は、多くの病床を持っているはずなので、基本的に入退院支援業務が多くなると思います。夜勤などもあるかも。

 患者(利用者)さんの出入りが激しいこともあり、一人一人に十分な時間をとっての相談はできないかも知れません。地域の中核病院であれば、院内のほかに行政や関連機関との連携も必要になるでしょう。基本的には、じっくり考えるよりも即断即決が得意な人向きではないでしょうか。

 給与は福祉系より高いと思いますが、最新の医療知識や病院ならではの適応力も必要ですし、社会福祉士というだけで即戦力ということはまずないでしょう。新卒の場合は、精神保健福祉士(PSW)を合わせて持っていると「お?こいつ使えそうだな。」と思ってもらえるかも知れません。

 自分の患者経験を込めて言えば、病気から指定難病や障害年金の手続きまで、しっかり相談に乗ってくれる病院があれば、どんなに安心か…。

 医療と福祉は地続きですので、本来であれば、病院の相談部門は社会福祉士がもっと活躍できる分野です。国の報酬適用などが進むことを望みます。

③行政(公務員)

 社会福祉士が働いているのは、県の出先機関か市区町村の福祉部署が中心です。虐待死や孤独死、生活保護の不正受給などがある度に叩かれるため、組織内では冷や飯ポジションとされています。キラキラ感には欠けますが、人の命と健康を守る重要なポジションです。

 以前は、福祉のフの字も知らない人が異動でやってきて、慣れた頃に去って行くという感じでしたが、最近は「福祉職」として、社会福祉士が採用要件になっているところが増えました。「社会福祉主事とは違うんだよ!」くらいの評価にはなってきているはずです。

 改善傾向にあるとは思いますが、上に行けば行くほど福祉に理解ある人は少ないと思った方がよいです。がんばって、あなたが偉くなってください!

 給与や福利厚生は、正規職員ならば安定しております。福祉系の中ではトップクラスではないでしょうか。繰り返します、正規職員ならば、福祉系の中では、です。

 公務員と言えば地元周辺を受験するパターンが多いと思いますが、福祉職は全国的に倍率が下がっているようですので、思い切って対象を全国に拡げてみるのも良いかも知れません。

 最前線でバリバリやりたい人は、全国から福祉専門職を募集している明石市※などの例もありますよ。(私は一時期真剣に受験を考えました)

 自分が地方公務員だったからか、悪い面を強調しがちになってしまいましたが、行政の福祉職は最も多くの人に福祉を届けられます。それだけは間違いありません。

 追記)※2022年10月に泉市長がパワハラの責任を取り、今期限りでの退任を意志表明しました。今後の見通しは不明と判断して見え消しにしました。

④社会福祉協議会(社協)

 全国と都府県社協の仕事は、基本的に事務作業になると思います。現場で地域福祉をしたいなら、市区町村社協になるでしょう。

 ところが、今は介護保険事業(通所介護や訪問介護事業など)が中心のところも多く、自治体から地域包括支援センターや相談支援事業所などを受託していなければ、社会福祉士を採用する必要性はあまりないかも知れません。

 介護系の資格を合わせて持っていると、万能選手として重宝されそうです。

 社協全体で見れば、近年、地域防災や災害ボランティアの受け入れなどで存在感が増していますので、気象や防災の知識があると活躍の場が広がると思います。

 また、まだまだ数は少ないですが、社協が成年後見業務(法人後見)を積極的に受けるようになれば、社会福祉士が必要になるはずです。

 給与・待遇は、地方公務員に準ずるところが多いので、安定していると思います。

⑤NPO法人など

 「ホームレス支援」「児童保育」「就労支援」「自殺予防」など、テーマを追求したい人には、大きな法人や公的機関よりもNPOなどのほうが、自分の目指すことを実現できるかも知れません。

 経営面での不安は拭えませんが、既存の組織では味わえない達成感とスピード感が大きな魅力です。最近、高学歴の若者が、貧困、自殺、LGBTQなどあらゆる分野で事業を立ち上げる動きが出てきて、全国的に知名度のある団体も増えてきました。

 必ずしも社会福祉士の資格は必要性ないのかも知れませんが、これから活躍が期待される場であると思います。

⑥一般企業

 例えば、あなたの前に現れた営業や企画の人が社会福祉士の資格を持っていたらどうでしょうか。一般的には社会福祉士の認知度はまだまだですが、これまでとは違う接客や商品が出来るかも知れません。競合他社との差別化にもなりませんか?

 社会福祉士だから福祉の仕事をしなければいけないという固定観念よりも、学んだことを活かし、より良いサービスや商品づくりにつなげる視点を持つことが大切なのではないでしょうか!

 …と面接でアピールしてみてください。思わぬ企業に採用されるかも!?

 最近は、高齢者福祉だけではなく、保育や障害福祉事業で株式市場に上場する会社も出てきました。福祉業界に最も足りないとされる“ビジネス感覚”を身につけるには良い選択かも知れません。

 ピジョンLITALICOエス・エム・エスなどは、一般の就活生からも人気なのではないでしょうか。

2.社会福祉士の独立・起業

 悪いことは言いません、まともに食べていこうとするなら独立はしないほうがいいです。「社会福祉士事務所+本屋」で開業し、貧しさに負けそうな私が言うのですから間違いありません。

 日本社会福祉士会のホームページによると、独立型社会福祉士名簿に掲載されているのは467名(2022年9月1日)です。単純計算で1都道府県に10人未満、実際には都市部に偏在しているはずです。

 2011年「日本社会福祉学会 秋季大会」で発表された調査結果を読む限りは、社会福祉士として充分にキャリアを積んだ人が兼業又は年金をもらいながら事務所を構えているパターンが多そうです。

 なお、「独立型社会福祉士」は、日本社会福祉士会の規程を満たしている者しか名乗れませんので、その他の独立して活動する社会福祉士(私もこれに該当します)は、含まれておりません。

①社会福祉士事務所

 まず、経営者になれば、様々な経費が自己負担になることをお忘れなく。相談支援業は身体一つでできる仕事ですので、投資は抑えられるとしても、1年間は仕事がなくても生活できる資金は必要です。

 私が調べた限りでは、司法書士や行政書士なら、相談料の相場は30分5,000円~。実際には、相談以外の法定業務で報酬を得ることができます。

 社会福祉士の場合は、相談料は彼らの半額~でしょうか。その他の業務も込みで月額2~3万円/人で契約しているところもあるようです。考えようによっては、報酬はアイディア次第?

 成年後見業務を主にする場合、裁判所が示している月額報酬は2万円です。扶養家族がいなければ、10件担当してなんとか生活できるレベル、いれば20件が目安でしょうか。それ以上は、身体がついていけるかどうか…。

 実際に成年後見業務を受任している社会福祉士の内訳を見ますと、、、

現在活動中の受任者は合計で6,275人です。1件の受任が1,928人(30.7%)、2件の受任が1,258人(20.0%)であり、合わせて50.7%となっています。一方5件~9件の受任が1,018人(16.2%)、10件~19件の受任が563人(9.0%)、20件以上の受任が212人(3.4%)、合わせて28.6%となっています。

とのことです。どうですか、いけそうですか?

②兼業、兼務

 最も現実的な路線です。私の知る限り経営的に成り立っていそうなのは、

 
 
 
 
  • 弁護士、司法書士または行政書士+社会福祉士
  • ケアマネジャー+社会福祉士
  • 不動産業+社会福祉士
  • 保険業+社会福祉士
  • 遺品整理業+社会福祉士

くらいしかないのですが、社会福祉士としての収入は“おまけ”のような…。ある程度の実務経験があるなら、非常勤の

  • スクールソーシャルワーカー
  • 公的機関の相談員

などになる方法もあります。

 スクールソーシャルワーカーは、週1~3回・各3時間勤務で、相場は1時間2,500円~5,000円くらい。ただし、毎年任用試験がありますので、先の保証はありません。(私的な予想ですが、常勤が増えて、教育委員会への社会福祉士が必置になれば、外部からの採用はなくなるかも知れませんね。)

 一般的な相談員なら、時給1,000円~1,500円くらいが相場でしょう。

 他には、数としては多くはありませんが、市区町村とのパイプがあれば

  • 介護保険認定審査委員
  • 各種計画策定委員

などの依頼があるかも知れません。

③補助・委託事業

 地域のニーズや実績があれば、

  • 飲食業(相談カフェなど)
  • 保育や高齢者の一時預かり
  • 見守り事業

などを、社会福祉士の特性を活かしながら、運営している例があります。ただし、自治体からの委託や補助事業は、法人格をもっていなければ対象にならない場合(営利法人は認めないところもあります)があります。お金をもらうには法律や実施要綱などの縛りがあることもお忘れなく。

 最近では、クラウドファンディングで資金を集める手法(手数料10~20%程度)もありますが、事業開始時はともかく、よほどのプレゼンテーション能力がなければ、継続して集めるのは難しいでしょう。

3.これからの社会福祉士

 日本は、これから超高齢社会と急激な人口減少に見舞われるのですから、様々な分野で福祉的なニーズ(コスト)が増えていきます。良くも悪くも、それらを税金ではなく、ビジネスで解決・吸収していく方向になるのでしょう。

 また、日本は確実に貧しくなっています。社会全体をユニバーサルデザイン(みんなに優しいデザイン)化することによって効率や生産性を上げていくという、一見相反する概念を昇華させていくしかないように思います。

 今の若い人は、環境問題やまちづくりへの意識が高くて頼もしいのですが、私から見れば、人や社会の役に“立ちたい”よりも、“立つべき”が先にきている感じがするのも、それらの大きな流れの中にあると思います。

 役に立って当然(福祉の一般化)の世の中では、「高齢者にも使いやすいスマホ」「乗り降りしやすい自動車」「食物アレルギーに対応したメニュー」「障害者アート」の開発・普及など、市場ニーズとしての福祉が必要とされていきます。

 これまで福祉業界は、処遇を超えた個人の「やりがい」に支えられてきた感がありますが、このままでは他の業界に人材が流れていくのは自然なことです。

 社会福祉士に限れば、法的に必置が進まない限り、単独で生き残るのは難しくなる一方ではないでしょうか。既に、簡単な相談であればAIが応えれば済むようになってきているのですから、私自身を棚に上げて言うなら、

  • ビジネス的なスキルを身に付け一般社会へ融け込む
  • 幅広い視野でコーディネーター的な役割となる
  • コンシェルジュ的な質の高い対人サービスを提供する
  • 異業種と組んで新規事業を開拓する
  • 清濁併せ呑むような肝っ玉相談員
  • ITから介護までこなせるなんでも屋

 などなど、社会福祉士として確実に食べていこうとすれば、専門性だけではなく個性を磨くことが重要になると思います。

4.最後に

 以上、社会福祉士について否定的なことを多く述べましたが、私は社会福祉士が法的にも必要とされ、そして、個性的な社会福祉士が世の中に増えていくことを強く望んでいます。

 私自身、まだまだ発展途上にある福祉業界の一助になればと思い、起業しました。自分が駄目でも、後に続いてくれる人が出てきて欲しいです。

 食べていけるかどうかで資格や仕事を選ぶのは大切ですが、そこに固執して自分を見失ったり、身体を壊したりするのは本末転倒です。本来、社会福祉士の存在意義は、そうならないようにするためにあると思います。

 それでは。志ある者に幸あれ!

 

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